大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和50年(行ツ)80号 判決

名古屋市中川区西古渡町二丁目二五番地

上告人

福田賢之助

右訴訟代理人弁護士

高橋貞夫

名古屋市中川区西古渡町六丁目八番地

被上告人

中川税務署長

兼子俊

右指定代理人

藤井光二

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四八年(行コ)第九号所得税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五〇年六月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋貞夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにすぎないものであって、採用することができない。

よって行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

(昭和五〇年(行ツ)第八〇号 上告人 福田賢之助)

上告代理人高橋貞夫の上告理由

原判決(名古屋高当裁判所昭和四八年(行コ)第九号)には、次のとおり判決の結果に影響を及ぼすべき法令違背(民事訴訟法第三九四条)があるから、原判決は破棄されるべきである。

一、原判決は、上告人(原審控訴人)が、その昭和四二年分売上金について、訴外石山木材株式会社、同木原造林株式会社、同中日フリーナー工業株式会社、同株式会社森平製材所、同山木材木店および合資会社山城屋材木店に対する被上告人(原審被控訴人)主張の各売上金額には、昭和四一年中の売上高合計金一一八万五一一〇円が含まれており、他方、昭和四二年の売上高の金三七、六四三円がもれているから、差引一一四万七四六七円が過大に計上されていると主張したのに対して、甲第二八、二九号証の各一、二、同第三〇号証の一ないし三、同第三一号証の一ないし一二、同第三二号証の一ないし五、同第三三号証の一、二、同第三四号証は、乙第一〇二号証、同第一一九号証、同第一三五号証、同第一八四号証、同第一八八号証、同第一九八号証に対比しにわかに措信しがたい(甲第三号証をのぞく前記甲号各証は、請求書、納品書等であるが相手方たる取引先の承認、照合を経たものでもなく必要とあれば、控訴人において任意作成しえないものでもないから、右乙号各証の証明力を減殺するに足るものではない)。また甲第三四号証は不完全にしてにわかに信用すべからざるものであるから、第一審判決の事実認定を左右するに足りない。と判示して、上告人の主張を斥けている。

二 しかしながら、原判決の右判断は、証拠を仔細に検討し、合理的に心証形成をなしたものとは認められず、採証法則に違背している。

すなわち

(一) 訴外石山木材株式会社に対する売上について

甲第三二号証の一は、同第三二号証の二ないし五の納品書に対応する部分を含む請求書であって、請求金額一五六、九二五円のうち、最上段から第四段までの金七一、〇九〇円は、昭和四一年一二月二一日から同月二八日までの売上に基く請求金額である。

これに対し、甲第一〇二号証回答欄最上段には、昭和四二年一月分の取引金額として、金一五二九八八円を記入し、同額を、同年二月一〇日に決済した旨の記載がある。而して、右一五六、九二五円との差は甲第三四号証一枚目裏(原本では、第二ページ―以下同証については右肩欄外数字をもって表示する)最上段に、値引金三九三七円とあり、この値引分に対応するものである。なお、同証には、昭和四二年三月一〇日決済された旨の記載があるが、これは、二月一〇日の誤記である。(甲第二〇号証第八段参照)。

しかして、右甲号各証と、乙第一〇二号証とを対比するとなるほど、原判決の摘示するような齟齬があるが、だからといって、直ちに、甲号各証を信用できないと即断することはできない。

第一に、甲第三二号証の一ないし五は、上告人において、納品、請求をした都度記入作成したものであるから、その詳細の内容は信頼するに足るものであるのに対し、乙第一〇二号証は、訴外石山木材株式会社が、被上告人の要請によってまとめた結果の報告であって、その内容の詳細は記入されていない。従って、その一定期間(一ケ月)の取引総合計を記載してあるが、その取引期間が、果たして当月初日から末日までの分を記載しているのが締切日から翌月締切日の前日までの分を記載しているか不明である。しかも、後者によっていると考えられる理由がある。即ち、報告者は、請求を受けて、支払をなした金額を、月の初日から末日までの分として記入する方が、手軽であり、一々の取引日をあたってみる手数が省けるからである。

第二に、甲第三二号証の一ないし五は、その原本は、背中を糊づけして綴じられた一冊の簿冊の形をなしており、爾後に加除し、或は、添削することは不可能なものであるから、原判決のいうように、必要に応じて任意作成するなどということはあり得ないことなのである。

のみならず、甲第三二号証の一ないし五、同第二〇号証、同三四号証を対比すると、それぞれの間に、前述のような齟齬が存するのであるが、もし、甲第三二号証の一ないし五、同第三四号証を、原判決の指摘するように、ほしいままにねつ造した事実があるならば、細心の注意を払いすくなくとも、既に提出してある書証との間に齟齬を生ずるような作成の仕方は決してしないであろう。むしろ、右のような記載の不正確なところが随所にみられるところにおいてこそ、右甲号各証が、その都度作成されたものと推認されるべき根拠が存するのである。

(二) 訴外木原造林株式会社について

甲第二九号証の一は同二の納品書に対応する請求書であり、これによると、上告人は昭和四二年一月一五日付で、金二五六三〇円を請求しているのであるが、うち二三四二〇円は昭和四一年一二月二八日に納品した分の請求である。

而してこの点については、甲第二一号証にも同様の記載がある。

これに対し、乙第一一九号証には、単に、昭和四二年二月一〇日に、金二五六三〇円を支払った旨記載されている。そうして、昭和四一年末の買掛金は「〇」と記載されているのであるが、これについても先に、石山木材株式会社に関して述べたと同じように、昭和四二年一月に請求を受けた分を、同月分の取引額とし、同額を決済額として記載していると考えられる十分な根拠がある。けだし、上告人は、毎月、二〇日ないし二五日に当日までの一ケ月分の売上金額を締めて、翌月一〇日(相手によっては五日、一五日、または二〇日)に現金または、手形、小切手による支払いを受けるようにしていたのであるところ、昭和四二年二月一〇日支払の分は、前月二〇日ないし二五日までの一ケ月分の代金が含まれるのであるから、昭和四一年一二月二一日ないし、二六日以降の取引による代金が含まれる可能性があるのみならず、右のように、月の途中で、締めて代金を請求するのであるから、例えば、昭和四二年一月の取引分については、同年二月および三月の二回にわたって支払われることとなるのであるが、乙第九四号証以下の乙号各証のいずれにも、このように、一ケ月分の取引金額を二回にわけて支払った旨を記載したものがないのである。

このことは、被上告人の、照会に対する各回答者らが、いずれも、上告人からの請求書の金額をそのまま、当月取引額として記載し、或は、上告人に対する支払金額を、前月の取引額として記載している(前述、石山木材株式会社もこの場合にあたると考えられる。)ことを伺わせるに十分である。

(三) 訴外中日クリーナー工業株式会社について。

甲第二八号証の一は、同第二八号証の二の納品書に対応する請求書であるが、これによると、上告人は昭和四二年一月二〇日に、同四一年一二月二九日に納品した足場丸太の代金四〇四二五円を請求している。(なお、甲第二八号証の二の日付に、一二月二二日のように記載されているが、これは納品書綴の上の紙に記載したものが、カーボン紙によって写し出されたものであって、原本は月・日の記載がない。)そうして、甲第二二号証によると、この代金は、昭和四二年一月(日付記載なし)に支払われたことになっているのであるが、甲第三四号証(一ページ)によると、昭和四二年二月一〇に支払われた旨記載されている。

これに対し、乙第一三五号証は、昭和四二年二月九日に金四〇、四二五円を現金で支払った旨を記載してある。しかしながら、この場合も、同年二月九日に支払われた金額は、前月または前々月の取引に対応する金額である筈であって、二月の取引による代金を当月に支払うことはあり得ないものであるところ、まず、支払日と支払金額を記入し、それを当月分の取引額として記載したものと確認されるのである。

(四) 訴外株式会社森平製材所について。

甲第三三号証の一は、同一の納品書に対応する請求書である。これによると、上告人は、昭和四二年一月二五日、同四一年一二月二四日納品の商品の代金一五三〇〇円を森平製材所に対して請求した。この代金は、甲第六四号証四ページ第八段に、昭和四二年の某月(月につき空白)一〇日に支払われたと記載されている。この点につき、甲第二五号証には、昭和四二年二月一〇日に支払われた旨の記載がある。

これに対し、乙第一八四号証は、その最下段に、二月一一日に金一五、三〇〇円を支払った旨の記載があるが、この記載は、正しくは、同記最上段に記載すべきものである(否、むしろ同証には記載すべからざるものである)。のみならず、同証には、取引金額の記載もなく、甚だしく不十分な証拠と言わなければならない。

(五) 訴外山木材木店(大蔵材木店)について。

甲第三〇号証の一は、同号証の二及び三の納品書に対応する請求書である。

これによれば、上告人は、昭和四二年一月二〇日に、同四一年一二月二四日、二八日に納品した商品の代金二、九三六円と同四一年一月一〇日に納品した商品の代金四二八三円を併せて請求している。

甲第三四号証一ページ第六段には、右合計三三、三一九円のうち一九円を値引した旨の記載がある。

これに対し乙第一八八号証には、昭和四二年一月に、金三三、三〇〇円の取引をなし、小切手で決済した旨の記載があるが、決済の月・日は不明である。

甲第三四号証には、右金額が、昭和四二年三月一〇日に支払われたように記載しているが、これは、二月一〇日の誤りである。

しかして、乙第一八八号証は前記金額の支払日も明らかでないのみならず、前に述べたように、決済金額を取引金額として記人したものと考えられるのであって必ずしも信頼するに足りないものである。

(六) 訴外合資会社山城屋材木店について。

甲第三一号証の一は、昭和四一年一二月二一日から同四二年一月二五日までの売上(同証に同四〇年一二月二一日から同四一年一月二五日までと記載してあるのは、誤記である)の金一、六七五、九八四円と、昭和四一年一二月二〇日までの残金二四〇一九円の合計金一、七〇〇、〇〇三円を、昭和四二年一月二五日に請求したものであるが、甲第三一号証の二ないし八によれば、前者のうち、金九八一八二〇円は、昭和四一年一二月二二日から同月二九日まで納品されたものであり、甲第二六号証にも同趣旨の記載がある。そうして、甲第三四号証一ページ第一四段には、金三円を値引きして、金一、七〇〇、〇〇〇円のうち、一、〇〇〇、〇〇〇円を約束手形で、七〇〇、〇〇〇円を小切手によって、某月一〇日支払いを受けた旨記載されている。

これに対し、乙第一九八号証は、昭和四二年一月三一日までの仕入、金一、七〇〇、〇〇〇円があり、その金額について、翌二月一〇日に、手形及び小切手により支払った旨の記載がある。

しかしながら、証人小柳津一成の証言(第二回)によると、一月三一日、一七〇石と書いてあることにつき、原告代理人の「それ以前の一月一日から一月三〇日までは書いていなかったんですか」との質問に対し、「これは決済金額で書いてきておりますので、そのほかも全部そうです」と答えているのであり、ここに、決済金額というのは、既に述べたとおり、月の半ばから翌月の半ばまでの期間の売上金額の請求に対応するものであって、決して、当月初日から、月末までの取引金額に対応するものではないのである。従って、右に、一月三一日、金一、七〇〇、〇〇〇円とあるのは、昭和四二年一月一日から同月三一日までの取引金額を示すものではないのである。

また、同証人は、原告代理人の「私のほうでは、これには、前年の終りごろの繰越金額がかなりはいっているという疑いをもっているんですが」との質問に答えて、一番上の一月三一日の一七〇石と記載されているところの上にある「内( )」という表示の中に、繰越金額を調査して記入すべきところ、調査未了である旨を述べている。

このところは、結局、右、金一、七〇〇、〇〇〇円の中に、昭和四一年一二月分の取引金額が含まれている可能性を意味するものに外ならず、真相は、甲第三二号証の一ないし、八によって明らかなように、金九八一、八二〇円と、金二四〇一九円の合計金一〇〇五八三九円の前年分の売上高が含まれているのである。

(七) 以上述べて来たように、原判決が、信用するに足るものとしている、乙第一〇二号証、同第一一九号証、同第一三五号証同第一八四号証、同第一八八号証は、いずれも、その記載方法および内容について、必ずしも正確なものではないのであるのに対し、甲第二八、二九号証の各一、二、同三〇号証の一ないし三、同第三一号証の一ないし八、同第三二号証の一ないし五、同第三三号証の一、二は、前述したとおり、納品または請求した都度作成し、原本簿冊は、到底、加除ないし添削することの不可能なものであること、および、その記載内容(ことに年、月、日の記載の誤り)等からして、更には、甲第二〇ないし二二号証、同第二五、二六号証の記載と対比するときには、むしろ、その内容が真正にして信ずるに足るものというべきであり、これを排斥した原判決は、誤りである。

三 原判決は、右誤った認定に基いて、被上告人がなした、昭和四二年分総所得金額を九〇九万六六一四円とする更正処分を適法とし、かつ、同年の重加算税賦課決定処分も適法なものであると判示しているのであるが、前述のとおり、昭和四二年の総所得金額が、金八、五〇六、〇四六円を超えるものでない以上、右更正処分および重加算税賦課決定処分は違法であり、取消さるるを免かれない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例